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外の扉を肩で押し開け、次の扉を探す。薮田は、エントランスが無駄に広いマンションに辟易としていた。マンション内に入る扉を探のも時間の無駄だと感じていたし、なにより、配達を終えて降りてきた時に左右を失認することが度々あって、右往左往する様子が防犯カメラで撮影されているかと思うと、そのことが堪らなく不愉快だった。
ようやく扉とボタンが配列されたインターホンを見つけ、薮田はインターホンに向かって歩き始めた。
「こんにちは」
背後から掛けられた声に驚いた薮田の肩が僅かに上がる。
「あ、こんにちは……」
薮田に声を掛けた女は、薮田を追い抜いてパネルのボタンを操作した。スピーカーから聴こえてきた「はーい」という応答に「私」とだけ女が応えると、自動ドアが開いた。その女が一歩中に入り、薮田に振り向くと口を開いた。
「それ、もしかしたら梓の? 御手洗梓」
「え?」
薮田が首を傾げていると、女は薮田の手に持ったピザの箱を指差した。薮田は伝票を確認した。部屋番号は直前に確認したが、名前はまだ目を通していない。改めて伝票を見ると、そこには確かに「ミタライアズサ」と書かれていた。
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