第一話

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第一話

「事件はいつでも起こる。気温なんか関係ない」  警視庁捜査一課の比嘉(ひが)警部が、両手に息を吹きかけ続けている部下の川島が繰り返す「寒い」と言う言葉に嘆息して言った。  「事件、ですかね? 事故ではないと言い切れます?」  二人の刑事は、都内郊外の新築マンションの駐車場に立っていた。二人の視線は揃って西日の当たるマンションの十二階に向いている。  一旦変死体が発見された1209号室まで上がった二人だったが、感覚を麻痺させる程に突き刺さる寒風に、鑑識の仕事が終わるまで下で待つことにしていた。 「無論、今の段階では断言できない。断言できないからこそ、疑わなければな。それが仕事だ」
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