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第三話
翌朝九時、比嘉と川島が番場の自宅を訪ねると、やや疲れた様子で番場が顔を出した。
「昨日の件ですか?」
寝間着に半纏姿の番場は、肩を震わせると比嘉たちを中へと誘った。この日の朝も冷え込んでいる。
「昨日御手洗さんの部屋を訪ねて来たのはこの女性ですか?」
比嘉は金丸椛の勤め先に保管されていた履歴書の写真を番場に見せた。拡大してはいるが、やや画質は荒い。
「どうかな……。こんな感じだったとは思いますがね。なにしろ、その後のことに動揺して」
一旦写真に視線を向けた番場だったが、そう答えて以降、もう二度と写真を見ようとしなかった。瞼の裏に焼き付いた、御手洗梓の死体の映像を必死に消そうとしているようだ。
「そうですか。他に何か特徴のようなものを覚えていらっしゃいませんか?」
比嘉は番場の様子を見て、控えめにそう訊いた。だが、番場は首を横に振るだけだった。
「分かりました。お疲れのところ申し訳ありませんでした」
これ以上粘っても良い答えは返って来そうにないと、比嘉は早々に諦めた。
「余程ショックだったんでしょうね」
次の目的地である薮田のアパートを目指して車を走らせながら、川島が嘆息した。
「仕方がないさ。死体を見つけて冷静でいられる人間の方が珍しい」
「ですね。……あ、降ってきましたよ。積もらなきゃいいんですけど」
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