輝け!天使の勅使河原!!

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今日は待ちに待った文化祭本番。演劇部で今回主役を務める俺は、朝から武者震いをこらえきれずにいた。 演目は『聖天使騎士(ホーリーエンジェルナイト)・ガイア』。劇作家志望の部長書き下ろしの、超ド級エンターテインメント作品となっている。 「そろそろ最後の通しするぞ~」 「よしきた」 「ちょっと待て。」 待てと言ったのは部長の勅使河原先輩だ。先輩は劇中のキーパーソン『大天使』をすることになっている。みんなが静かになったのを確認し、先輩はまっすぐな瞳で言い放つ。 「頭のワッカ以外全部家に忘れてきた。すまん。」 部室は、水を打ったように静まり返る。 「えっ…なんでわざわざ持ち帰ってんすか?」 「羽も衣装もないんじゃ、制服にワッカつけただけのヤバい人だよ!!」 「せっかく私が徹夜して作ったのに…っ」 思い思いに騒ぎ出した部員を前に、勅使河原先輩はピシャリと言い放つ。 「では、今から羽を用意できる奴がいるのか? …片道2時間の俺の家まで、取りに行ける奴がいるのか!!?」 …いや、アンタのせいだろ。みんなは思ったが、誰もそれを口に出す勇気はなかった。 ・・・ 「えーそれでは演劇部プレゼンツ、『ホーリーエンジェルナイト・ガイア』でーす。」 ♪~ ガイア)「俺はどこにでもいる至って普通な高校生のガイア。ある日の通学路…」 悪魔)「やい天使、いつもえらそうにしやがって!アタイはアンタの白い羽が何よりも気に食わねぇっ!!今日はなんか、付いてないけどっ」 大天使)「はっはっは。悪魔よ、そんなに私の白い羽が羨ましいか。邪悪なお前に汚されぬよう、今日はちょっと家に置いてきただけだが…」 ーーー結局羽をどうすることもできなかった勅使河原先輩は、リハ通り制服に天使のワッカをつけただけの格好だ。対して、悪魔役の内藤先輩はがっつり悪魔の格好をしていて…さらにもうなんか謎のアドリブで、余計わけわかんないことなってるよ!!雑念に囚われかけたが、僕は必死で役に入り込んだ。 ガイア)「だ、誰だお前たちは!」 悪魔)「アタシたちの姿が見えてるのかい?アンタ、何者だい!?」 ガイア)「俺は至って普通な高校生、ガイアだ!!」 ナレーター)「その時!街を唐突に、謎の怪物が襲う!!」 怪物)「グワァ~ッ」 大天使)「君、ガイアとか言ったな!天使か悪魔どちらかと契約してこの街を救うんだ!悪魔の力を借りれば強大な力が手に入るが、天使の力を借りれば聖なる力が手に入るぞ…お前はどっちを選ぶ!」 悪魔)「さっさとアタシと契約しなさいよォ!」 ガイア)「俺は強くなりたい…けど、醜く汚れた心にはなりたくないっ!…俺は迷わず大天使の手を取った。次の瞬間……うおお、天使の力を感じるぜー!!」 ーーー舞台、暗転。 大天使)「ガイアとかいう君、とりあえず『ホーリーチェンジガイア』って叫んでごらんなさい!!」 ガイア)「ホーリーチェンジ!ガイアッ!!」 ーーー本来であれば、僕はここで制服の上から『羽と』ワッカを装着するはずだったが、使い回すはずだった勅使河原先輩の白い羽はいま絶賛先輩の家の中なので、黒子の本田ちゃんは僕に天使のワッカだけを装着し舞台を去っていった。こうして暗転した舞台上には、『制服にワッカ付けただけのやばい人2人目』が爆誕した。明転。 ガイア)「うおおあー!ホーリーパーンチ!ホーリーキーック!ハアハア…やっつけたぜ……。ガクッ。」 ーーー暗転。 ふたたび本田ちゃんが忍び寄り、僕のワッカを回収する。ここからは大天使がふたたび舞台に現れ、いよいよクライマックスだ。そこで舞台袖から、本田ちゃんとワッカを付けた勅使河原先輩の忍び声が聞こえる。 「先輩!内藤先輩の羽もう使わないんで、付けときますね!」 「おぉ、ありがとう本田!!」 まてよ、内藤先輩の羽ってたしか…。気付いた時にはもう、舞台は明転していた。こうして『はっはっは…』と笑いながら、黒い羽根をつけた大天使が舞台に出現する。 大天使)「よくやったな人間。」 ガイア)「俺、いつの間に元に……はっ!天使のワッカと羽がなくなっている!さっきまで付いていたのに!(厳密にはワッカだけ)」 大天使)「はっは。もっと徳を積み、天使のパワーを高めなくては、白い羽を生やすことなど到底できまい。」 観客&ガイア)「(黒い羽付けて何言ってんだ!!)」 大天使)「よいか、人間。これからも平和を守り、さらなる高みを目指すのだ!」 女性の声)「キャー怪物ー!」 ガイア)「おっと、早速お呼びだぜ!これからも、ガイアのかつや……ホーリーナイトエンジェル・ガイアの活躍は続くぜ!!またな!!」 ・・・ 文化祭後、部室で開かれた打ち上げ会は、先輩が羽を忘れたせいで劇がフワッとした感じになったのを受け劇と同じくややフワッとした空気になっていた。全員が席に着いているのを確認し、勅使河原先輩がやにわに立ち上がる。 「色々あったが、とにかく今日はみんなありがとう。最高の演劇、そして最高の思い出ができたと思う。」 『色々あったのは、主にアンタのせいだろ…』勅使河原先輩以外全員の脳裏に同じ言葉がうかび、みんなは黙ってうつむいた。先輩は続ける。 「この場を借りて言わせてもらうが…じつは俺、転校するんだ。みんな本当に今までありがとう。」 え…とざわつき始めた部員を前に、勅使河原先輩はスンと鼻をすすった。 「それと…本田は入ったばっかりだが、ぜひみんなで色々教えてやってほしい。っていうのもほら…うちの学校って、5人以下で同好会に格下げになっちゃうだろ?俺が抜けた後そうならないようにと思って、変な時期だけど急いで勧誘して入ってもらったヤツだから…本田もみんなと一緒に、演劇部の未来をしょって立ってくれ!!」 本田ちゃんはうんうんと涙目で頷いた。 て、勅使河原先輩、 自分がいなくなった後の事まで…!! そのとき部員全員は、確かに見た。勅使河原先輩の背中に生える、白くて大きな天使の羽を…。(おわり)
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