学校はデスゲーム実行委員会に乗っ取られました

2/3
前へ
/3ページ
次へ
****  ……ここまでが、三日前の出来事だった。  最初の一日、二日までは皆はパニックを起こしながらも仲のいい面子と固まって籠城先を決めて、そこに身を隠していたが、デスゲーム実行委員会もこのままではゲームがはじまらないと判断したのだろう。  死ぬことがペナルティならば、誰も死にたくないので身を隠す以外しないが。  殺すことで褒賞が得られるのならば、人はそれを是とする。  仕方がないと言い訳をしながら、人を殺す。  俺たち生徒会室や運動部室みたいに、泊まり込みのためのシャワーや食料、寝袋が完備されていたらともかく、帰宅部や文化部にはそんなものは当然ない。  デスゲーム実行委員会は言う。 『ひとり殺すごとに食料を一食分与えましょう。四人殺したらすごいということで特別に簡易シャワー室の使用許可も与えましょう』  人としての尊厳をさんざん削られてきた中で、その言葉は甘露だった。  デスゲーム実行委員会はさらに重ねる。 『一クラス殺したら、大変にすごいということで、デスゲーム実行委員会配下の風紀委員に加えましょう。これで衣食住は保証します』  そう言いながら、廊下に銃器をばら撒きはじめたのだ。  甘露を与え、武器を与えたらどうなるか。  そんなものは日の目を見るより明らかだった。  大人しく腹を空かせて震えているだけだった図書委員会が、真っ先に武器を取って、運動部室を襲撃しはじめたのだ。  本来ならもっとも屈強な面々がいる場所を、普通だったら襲わないが、彼女たちは我慢ならなかったのだ。 「どうして……どうしていつもセクハラばっかりする部が優遇されて、私たちは不遇なの!? もう我慢ならない……!!」 「大会を言い訳にして、私たちの授業の成果を奪うし! 今回だって……食料も水もシャワーも分けてって言っても断るし、それでも粘った子たちを……!」 「もうこいつら絶対に学校の外に出さない! もうここで殺す!!」  学校のヒエラルキー上位は運動部で、その次に成績上位者が占める。図書委員は成績は中の中が多い上、本好き以外は図書館を屋根のある雑談部屋扱いするものだから、溜まりに溜まったフラストレーションを、三食の食事にシャワーを盾に取られたせいで、とうとう爆発してしまったらしい。  逆に運動部たちは、なんとか彼女たちから武器を奪って手籠めにしようとしたが、ひとり異様に武器の扱いに長けた女子がいて、とうとう運動部を壊滅させてしまった。  一番大人しいと思っていた集団が、一番強いとされていた運動部を壊滅させてしまったせいで、校内は騒然とする。 「大変! 図書委員会のせいで、とうとうデスゲームがはじまった!」 「……武器を取られる前に回収しないといけないな」  生徒会室は校舎でも一番高い場所に位置し、校内で起こっていることを俯瞰することができた。  血に塗れた運動部室周辺に、デスゲーム実行委員会が黒いマントをはためかせ、簡易シャワー室を設置しているのが見えた。図書委員たちはシャワー室に入ると、彼らからマントとお面を渡され、【風紀委員】の腕章を付けられる。  それらを見ながら、歯ぎしりをする。  今はスマホは使えない、電話も使えない上に、どこのグループが無事で、どこのグループがデスゲーム実行委員会に取り込まれたのかがわからない。  俺たちはひとまず手にはめいめいバッド、バールのようなもの、消火器を携えて出かけることにした。  デスゲームなんて嫌いだ。  たしかに運動部連中が驕り、人間的に駄目だったのは事実だろう。図書委員会の怒りはもっともだ。  だが、殺す必要はあったのか?  取り込まれてしまった図書委員会だって、本来は大人しい性分の面子だ。風呂に入れない、食料がないなんてフラストレーションが溜まらなかったら、銃器なんてまず取らなかっただろう。  これは選んだんじゃない。  デスゲーム実行委員会に選択肢を無理矢理奪われた挙句に、それらしい選択肢を与えられただけだ。  こんなの選んだなんて言えない。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加