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「お前たち今すぐデスゲームなんてやめろぉぉぉぉ!!」
ブシャーッッと消火器を放つ。その白い煙でゲホゲホしている間に、バットを持った副生徒会長が殴って武器を落とさせ、パールのようなものを持った会計が武器を回収して回る。
武器を持って泣いていたのは、帰宅部の面子だった。襲われていた生徒たちは話を聞いてみると園芸部だった。
「園芸部は……今は収穫期だから食べ物がいっぱいあって……」
「いくらあるからって、全部獲って食べたら来年育てる分がなくなるからあげられないよ! 水はあげるからって言ってるのに……」
畑いっぱいのさつまいもを巡って銃で襲撃なんて、話にならない。
さつまいもの根は一部を種いもとしてとっておき、いもには一切手を付けずに茎ばかりカセットコンロと水で茹でて食べていた園芸部の涙ぐましい努力も、帰宅部面々からしてみればさつまいもの独占に見えたらしい。
仕方がなく、俺たちは生徒会に備え付けの栄養バーを分けてやり、「本当に絶対にデスゲームに乗るな。いったいなんのペナルティーがあるかわからないからな」と何度も何度も言ってから、次へと回った。
だんだん回収した武器が重くなり、途中家庭科部から借りたカートに乗せなかったら運びきれない重さになってきた。
「それにしても。デスゲーム実行委員会はいったいなにがやりたかったんでしょうか?」
書記が呟く。
そもそも一日目にいたはずの学校の教師陣営が、二日目には全員警察に連絡ができないよう拘束されてしまったのだ。
生徒は見せしめのために殺されているのに。
「普通に考えたら、学校の生徒が全員帰宅しないってことは、警察に相談が入りますし、警察が来てもおかしくありません。でもその気配がありません」
「そもそも学校近辺って住宅地ですよね? ここで銃声なんて響いたら……」
「……生徒会室から見た所感だけれど、おそらく学校近辺の住宅地は買収されてる」
生徒会室は校舎の一番高い場所にあり、住宅地も当然ながら俯瞰することができる。この三日間、人が不自然に出てこないのだ。
最初は銃声が響いて家の外に出てこないのかと思っていたけれど、夜になってもどの家にも明かりが入らず、外灯以外の光がほぼないのを見て、誰も家に帰っていないと踏んだんだ。
「え……つまりは」
「デスゲーム実行委員会はなんらかの資産を持って、この周辺を支配したと考えたほうがいい」
金の力で、デスゲームをやってのけて、生徒たちに迷惑をかけている。いったいなんて連中だ。
でも金の力でゲームを運営し、銃器でゲームを支配している。このゲーム盤をひっくり返すにはどうしたらいい?
俺たちは移動しながら、途中途中で武器と一緒に消火器も回収しはじめた。
反撃はどうしたらいいのかと、考えを張り巡らせながら。
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三日目で食料と風呂目当てで一番大人しい図書委員会が決起した。これ以上長引けば、大人しいと思っていた他のグループも動き出し、いよいよ収拾がつかなくなる。
武器は回収して回っているし、戦いを無効化するために消火器だって回収した。
「……四日目になったら、デスゲームに参加するグループが増える。収拾がつかなくなる前に、早期決着を求めたい」
「でも、どうするおつもりですか?」
「下水道がある。そこから外に出て、まともな大人に助けを求めたい」
「相手は資産も武器もありますよ? それに対抗できる人って……」
「大使館だ。いくら日本の権力を行使できても、大使館までは襲撃できないはずだ。そんなことしたら、国際問題になる」
まともな大人がいたのなら、それに助けを求めることができるが。町ひとつをたった一日で買収できる資産も権力も持っているとしたら、もう下手に隣町に助けを求めるよりも、他国に助けを求めたほうが早い。
下水道を通って一番近い大使館の場所は、B国のものだ。そこまで俺たちは助けを求めに行くことにした。
消火器を背中に携え、必死に走りはじめる。
デスゲーム実行委員会がいないことを確認してから、なんとか一階に降り立った俺たちは、マンホールを開けて走り出す。
『残念ですよ、生徒会長。まさか真っ先に生徒会を伴って生徒を見捨てて脱出しようとするなんて』
途端にマンホールはバンッと音を立てて閉まり、銃器を抱えた風紀委員に銃を向けられる。
俺たちはデスゲーム実行委員会の委員長を睨んだ。
「……逃げるんじゃない。助けを求めに行くんだ。周りの大人は既にいないとなったら、よそから大人を探しに行くしかないだろう」
『どうして信用できるというんですか? 大人は嘘つきだし、権力者は金ですぐに靡きます。武器をちらつかせれば強い者だって口を噤みますし、そんな人々のいったいどこが信用におけるというんですか?』
「選択肢を根こそぎ奪って、そっちに都合のいい選択肢だけをそれしかないって突きつける連中よりもマシだ。誰だって死にたくないし、生きていたい。なにもせずとも生きられる選択肢を奪っておいて、なにが信用におけないだ」
『大人は本当に信用おけないじゃないですか』
そう言いながら、デスゲーム実行委員長は初めてお面に手をかけた。
その外した素顔を見た途端、俺たち生徒会だけでなく、風紀委員すら息を飲んだ。
その顔は、抉れていた。
抉れて見えるんじゃない、本当に文字通りに抉れている。そして顔の縁は赤黒く、皮膚がない。
『不祥事の火事に巻き込まれたんですよ。事件は揉み消されましたので、新聞沙汰にすらなってません。ただ俺たちの住んでいる町が地図から消滅しただけです』
「……その大人を信じられないから、復讐のために俺たちを使ったというのか?」
『ええ。ええ。大人の真似事をしましたが、不愉快そのものですね。権力を使って町ひとつ引っ越してもらい金を使って教師陣を口止めして追い出し、武器一式をばら撒いて、権力者たちを力で屈服されました。それでもせいぜい町ひとつしか変わらないんですよね』
「……水って、上から下に流れるんだよ」
『はい?』
「川上に流れている水がどれだけ綺麗でも、川上に住んでいる奴らが汚した水は川下の生活用水を汚す。どれだけ自分たちは不幸だとわめいていて川上を汚したら、川下はどっちみち汚れる。川上に言ってわめくんじゃない。川上の水を川下に配ることが、一番平和になることじゃないのか?」
『あなたは……いったいなにを知って』
「大人のやらかしのせいで憤っている気持ちはわかるよ。悪い奴は皆死ねばいいっていう気持ちも理解できる。だがな。図書委員の連中はどうする? あいつらは元々大人しい奴らだったし、運動部からいいように使われていただけ。でも殺す必要なんてなかったんだ。でもあいつらは殺しちまった。あいつらは一生なにかの選択肢を迫られたら、人を殺すって選択肢が挟まるようになったんだ。そいつのせいで自分の人生が台無しになるのにな?」
俺はその手の連中にいいように使われた気持ち、嫌というほどわかっていた。
だが、それだけは許容できない。しちゃいけない。
「俺は町を発電所にするために追い出されてここに越してきたんだよ。あんたのところみたいに町ひとつ消された訳じゃないけれど、大人の都合って奴でもう故郷に帰れない。でもその発電所でつくられた電気は、回り回って皆の生活に使われている」
俺は胸倉をつかんで、気付いた。
こいつは痩せギスの体を制服で覆っていると。その痩せた体はストレスによる拒食症なのか、なにかの病気なのかはわからないが、自分のことを虚勢で必死で強く見せつけていると。
俺は吐き出した。
「恨んだっていい、憎んだっていい。でもそれをぶつける相手は間違えちゃいけねえ。うちの生徒たちを、これ以上お前の復讐の道具に使うんじゃねえ……!」
一発殴る。それで終わる。
そう思ったが。そいつは銃を取り出し、俺の眉間を狙った
『本当に綺麗ごとばかり……吐き気がします』
……ここまでか。そう思ったとき。
俺は突き飛ばされ、下水に落ちた。鼻が曲がりそうだったが、その下水にどんどん流されていく。
「おいっ!」
「生徒会長! 逃げて! お願いだから!」
それは風紀委員に取り込まれたはずの、図書委員だった。
彼女たちがどれだけ弱い中、周りから搾取されていたかはわからない。搾取され続けた結果、とうとうデスゲーム実行委員会の甘露に飲まれて銃器を取ったのに。それでも、彼女たちは必死に戦いはじめたのだ。
外は雨でも降っているんだろうか。勢いは早く、どんどんデスゲーム実行委員会も、生徒会も、図書委員も見えなくなっていく。
……あいつらを助けるためにも、俺は生きて大使館に向かわないといけない。
理不尽に爪を立て、歯を食いしばって前を見る。
俺は汚い下水を泳いで、必死に大使館のある出口を求めはじめた。
<了>
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