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執務室に戻る頃には、部長の機嫌はすっかり直っていた。
真っ直ぐ自席へと戻る部長の背中を盗み見ながら、ほっと息を吐いて荷物を置く。
「佐藤さん」
同時に声をかけられて、振り向くと松下さんが立っていた。その眉毛は、何故か申し訳なさそうに下がっている。何かやらかしてしまっただろうか……。不安になりながら、恐る恐る返事をした。
「はい……?」
松下さんは三十代後半の、眼鏡の奥から覗く瞳がとっても優しい男性だ。……半年前、彼の席には別の女の子が座っていた。
「さっき総務部の田中さんから電話があって、かけ直してほしいって」
「あ、わかりました! ありがとうございます」
丁寧に内線番号まで書かれたメモを受け取り、お礼を言う。
早速かけ直そうと受話器に手を伸ばしたところで、「それ」と今度は斜め前の席から声をかけられた。顔を上げると、戸田さんが心配そうにこちらを見ている。
「もし何か面倒なお願いされそうだったら、遠慮なく俺とか松下に代わってくれていいからね。佐藤さん優しいから、わざと佐藤さんを狙って電話してくる奴もいるし」
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