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そんな私にも皆優しくて、東雲部長も見捨てないでくれていた。だからこそ、頑張って仕事を覚えて、皆の、この部の役に立ちたい。
……頑張らなくちゃ。
深呼吸をひとつ。
自分に活を入れなおし、私は松下さんに貰ったメモを見つめながら受話器を持ち上げた。
◇
まるで断罪を待つ罪人のような心地で待っていた視察の日は、あっという間にやって来た。
待ち合わせは大宮駅。
初めて降り立った駅構内は想像以上に広く、部長と合流できなかったらどうしようかと、早々にプチパニックに陥ってしまったけれど。
それが杞憂だったと知るのは、それまで思い思いに過ごしていた周辺の人々が、まるで示し合わせたようにざわめき始めた時だった。
「え、ねえ、めっちゃイケメンいる!」
「誰だろ、俳優?」
隣から聞こえて来た女子高生のヒソヒソ話に、えっ、有名人? とちょっとしたミーハー心で顔を上げる。
しかしそわりと浮き立った心は、すぐに吹き飛ばされてしまった。
確かに、きらきらしいオーラを纏った男性が、改札口からこちらへと真っ直ぐ向かって来ている。すれ違う人たちの視線を独り占めして。
でも、違うんです。
その人、俳優とかじゃなくて――。
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