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ふと、伏し目がちだった瞼が持ち上げられ、パチリと視線が絡む。
蜂蜜を溶かし込んだような双眸が、私を映して柔らかくほどけた。
その甘やかさについ、「ひっ」と小さく純粋な悲鳴を上げてしまう。そんな私の後ろでは、黄色い悲鳴がいくつも上がっていたけれど。
そして、俳優かと間違えられていたその人は長い脚であっという間に私の前に立ち、突き刺さる視線をものともせず私に微笑んだ。
「悪い佐藤。待たせたな」
「い、いえ!」
待ってはない。ないけど、この場からは早く逃げ出したい。
「い、いきましょうか!」
一刻も早く! ……とは言えないので、緊張でカチンコチンな腕と足を必死に動かす。
流れ弾の如く私に撃たれる視線を避けるように歩き出せば、彼は不思議そうな顔をしながらも隣に並んでくれた。
「……マネージャー?」
段々と人だかりから離れていく中で、耳に届いたぽつりとした呟き。
いや、この人はただの一般企業の部長です。そして私はただの部下。
そう思うものの、わざわざ訂正して周るわけにもいかないので口を引き結んで歩き続ける。
すると部長が首を傾げながらこちらを覗き込んできたので、私は慌てて、下手くそな作り笑顔で誤魔化すのだった。
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