第一話

16/28
前へ
/103ページ
次へ
 支社に赴いた経験が無いとはいえ、場所はしっかり予習済だ。  そのため、緊張しながらも迷いなく歩いていれば、それまで静かだった東雲部長が突然「……フッ」と笑いだしたので、私は驚きのあまり思わず足を止めた。 「えっ、ごめんなさい道間違ってますか!?」  それとも、行き方を間違えているだろうか。  こんな道通るのかよコイツ、とかいう笑いだったりする!? とパニックになっていれば、いや、と部長が口元に手を当てながら少し顔を逸らす。  でも、その肩は小刻みに揺れていた。 「……君、かなり緊張してるだろう」 「え、はい」 「手と足が一緒に出てる」  ふふ、とまた堪えきれなかったように微笑まれ、恥ずかしくて顔が熱くなる。  カチコチになっている自覚はあったけれど、手と足が一緒になっている自覚は無かった。行進覚えたての小学生じゃないんだから、しっかりしてよ、私の体。 「……申し訳ありません」  もう何と言えばいいか分からず俯きながら謝れば、部長は「いやいや」とやや慌てたような声になった。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

132人が本棚に入れています
本棚に追加