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「……なあ」
そして、東雲部長が何かを言おうと薄い唇を開いた時。
「東雲部長」
後ろから部長を呼び止める声が聞こえてきて、私と部長は揃って振り向いた。
そこに立っていたのは、真っ赤なルージュが印象的なスタイル抜群の女性。
濡れ羽色の髪をかき上げてハイヒールで歩くその姿が、ドラマに出てくるようなバリバリのキャリアウーマンさながらで、かっこいい……と思わず見惚れてしまう。
部長の知り合いだろうか。そう隣をちらりと見上げると、ストンと感情をそぎ落としたような真顔が視界に飛び込み、怖くなってすぐに目を逸らした。うん、知り合いではないみたい。
しかし女性は凍えるような部長の視線をものともせず、妖艶な笑みを湛えたまま私たちの前に立った。
「私、経理部の黒木と申します。これからお昼ですよね? 近くに美味しいお店を知っているので、良ければご一緒にどうですか?」
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