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正直まだ、部長は私のことを買いかぶりすぎなんじゃないか。そう思うけど、口を噤んで首を横に振る。期待を裏切りたいわけではないから。
「ん。じゃあ、詳細は後で連絡するな」
部長は満足そうに頷いたけれど、でもやっぱり不安なものは不安で。
そんな私を安心させるように、横山くんがぱちんと茶目っ気たっぷりのウインクを送ってきた。かと思うと、私と部長の背中をポンと優しく押す。
「ささ、そろそろ出ましょっか。次使う人が待ってますからねー」
それはいけない。慌てて荷物を抱えて廊下に出ると、数人の男女が外で待っていた。
部長が顔を出した瞬間に集まる視線。
きらきらのシャドウに彩られた瞳が瞬く間に見開かれていくのを、私は呆然と見つめてしまった。
「あ……」
声を掛けようとしたのかもしれない。頬を薔薇色に染めた、可愛らしく着飾った内の一人が吐息のように声を漏らす。
私はどきりとして、半歩前を歩く部長を見上げた。
しかし彼の瞳は送られる熱視線を歯牙にもかけず、彼女たちを一瞥することさえ無い。
「おい」
すれ違いで入室した男性社員が、微動だにしない彼女たちを咎めるように呼ぶ。
部長の横顔を名残惜しそうに見つめていた視線が渋々といったように外され──最後に、半歩後ろを歩いていた私を捕まえた。
瞬間、鬱陶しいものを見るような目つきで睨まれたような気がして、私は慌てて俯いたのだった。
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