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来た時とは違い、ゆっくり歩きながら三人で人事部の執務室を目指す。
その道中で、横山くんが東雲部長の隣に並びながら明るく声をかけた。
「来週の視察、どこなんですか?」
気さくな横山くんの姿に感心しながら私は二人の後ろをてくてく歩く。
すごいなあ、横山くんは。
あんな風に部長に話しかけるなんて、私には天地がひっくり返っても無理だ。
「大宮だな」
「じゃ、日帰りですね。よかった、泊りがけなら意地でも着いていかなきゃって思ってたんで」
「いや何でだよ」
はー、と大袈裟に胸を撫でおろした横山くんに、東雲部長が怪訝な顔で突っ込む。そんな部長に、何故か横山くんはにやりと意地悪く口の端を吊り上げた。
ついでに私に向かってちらりと視線を送ってきたような気がして、私は首を傾げる。
「そりゃあもう、部長が変な気を起こさないように?」
「……上司に向ける言葉ではないな。そんなに仕置きをご所望か?」
一瞬固まった部長が、次の瞬間にはにっこりとたいそう綺麗な作り笑顔を浮かべ、まるで友達の肩を組むように横山くんへ腕を回――したかと思うと、そのまま横山くんの首を締めあげた。
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