第一話

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第一話

 いけない、遅くなっちゃった……!  会議の時間まであと五分。私は額にうっすらと汗を滲ませながら、咎められない程度の小走りで廊下を駆けていた。  席を立とうとした瞬間に掛かってきた内線電話の対応に、思いのほか時間を取られてしまい。終わった時にはもう、執務室に一人取り残されていたのだ。 (早めに会議室の準備をしておきたかったのに……!)  泣きたい気持ちを抱えながらもどうにか会議室まで辿り着き、呼吸を整えてからノックする。  はあい、と明るい男性の声が聞こえてきたと同時にドアを開き、私は勢いよく頭を下げた。 「すみません、遅くなりました!」  謝ってすぐに顔を上げれば、ああやっぱり、お茶出しもプロジェクターの準備も完璧だ。  私が一番下っ端なのに、全部任せてしまった。  絶望する私の頭上に、優しい声が降る。 「大丈夫だよ、佐藤さん。まだ開始時間じゃないから」  そう微笑んでくれたのは、艶やかな黒髪が素敵な井上さん。 「そーだよ! それにさっちゃん、電話で捕まってたもんね」
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