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ペルと名乗る男の店から白紙の本を借りた、その七日後。
街の西側の建物が、殆ど沈んだ太陽にまだ照らされ、宵闇の中にそのシルエットを映した頃。
仕事を終えて帰宅したベルクは、夕食を済ませた後、両親や使用人に近付かぬよう言いつけ、自室に籠った。
あまり期待しない風を装いながらも、落ち着かない様子でそわそわと夜を待つ。
やがて黄金色の三日月が空の主役になり、そのすぐ脇に小さな星が煌めいた時分。
「しかし、魔法などと信じ難い」
そうひとりごちながらも、例の店主の言った通りにした。
机の上に本を置き、手をかざす。
すると、それまで褐色だった表紙が、さぁっと淡いブルーに変わった。
さらに、白い題字がぼぅっと浮かび上がる。
ベルクは、ひっと小さく声をあげて驚いた。
「――だが、こんなもので性格が変わるなどとは」
この期に及んでなお、忌々し気に呟く。
それでも、恐る恐る頁をめくった。
アルファベットに似た文字で書かれた題名は、『愛は慎みの中に』という意味のものだった。
そこに書かれていたのは、とある女性の目から見た物語だった。
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