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アクロポリスの麓に広がる古い街並み。
近代的な高層建築と、昔ながらの平屋造りの家屋がひしめき合う狭い路地。
敷き詰められているのは、つい昨日まで古代人が踏んでいたかのような石畳。
二千年前と同じエーゲ海からの風が薫るその街の片隅に、不思議な貸本屋があるという。
そんな噂を聞きつけて、ベルクは都会からやって来た。
しばらく歩き回り、漸く見つけたそれらしき建物の前で立ち止まる。
漆喰の白壁が多い中、その店だけ煉瓦造りである。
小さく掲げられた看板を一瞥し、入口の木扉を引いた。
カランコロン。ドアベルが小気味良く鳴る。
木製の椅子に腰かけて書物に目を落としていた男が顔を上げ、来客へ優雅な微笑を向けた。
フェズハットと呼ばれるえんじ色の台形帽がまず目を引く。彫りが深く端正な顔立ちだ。
「いらっしゃいませ。店主のペルと申します。本日はどのような書物をお求めでしょう」
その声は大理石の手触りのように涼やかだが、見るほどに妙な雰囲気の男だ。
髭の薄い滑らかな肌が一見若く見える。だが、落ち着いた物腰からは年齢が読めない。
白いシャツの上には、繊細な刺繍の施された黒いベスト。
腰には帽子と同じ、えんじ色の腰巻布。
全体的にゆったりしたシルエットで、裾に向かって窄む黒いズボンはカフタンと呼ばれるものだ。
古い時代の伝統衣装だが、今時分、祭事や礼拝でもない平時にこんななりをする人間は珍しい。
いささか訝しみながら、ベルクは店内をじろりと見回した。
一目で全体を見渡せる程度の広さ。
壁面全体に備え付けられた書棚には、隙間を見つけるのが難しいほどに本が詰め込まれている。
彩り美しいモザイクランプがいくつか置かれているだけで、他に照明はない。窓もないので、昼間だというのに薄暗いというより仄明るい印象だ。
「古今東西、様々な書物を取り揃えております。きっと貴男の必要とされるものが見つかるはずです」
ペルと名乗った店主に再び促され、ベルクはここへ来た目的を伝えた。
「うむ。性格を変えられる本があると聞いたのだが」
それを聞いた店主は、微笑を崩さず問い返した。
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