9人が本棚に入れています
本棚に追加
秋
待ち合わせはきっかり午後5時30分。
黄昏時は街をセピアにかえる。何もかも。
「『持たせた』」
「『待ってないよ』なんてね」
寄り添う二人も幻想的でやたらとキレイ。天使は今日も神々しくて光っている。
「ごっこ遊び? 楽しそうなことやってるじゃん」
背後に人が居るなんて思ってもないから、全身が凍りつく。いや、でもここは冷静に平静に。
「暇つぶしにね」
振り返らなくても声の主は三城だとわかっていた。長身のろくでもないスポーツマンもどき。ろくでもないのは私の方だけど。歳上の彼氏は今年に入って5番目の男。カウントダウンは始まっていて、そろそろエンドロールが流れる頃合い。いうなれば黄昏時と同じ。もうすぐ終わる、苦い1日。
「あれは天使ちゃんと葵か」
渡り廊下の窓から二人が正門を出ていくのを見送った。清楚な天使ちゃんこと佐子ちゃんは性格もいいらしい。対して葵も稀に見る好青年。
「俺たちと正反対なのな」
「三城は一見、爽やか好青年だから葵寄りだけど」
「一見な」
爛れた女関係を除けば、その不名誉な一言はなくなるのに、残念な男だった。
「で、小鳥遊は帰らないの? 彼氏のお迎え待ち?」
帰るよとぶっきらぼうに言うと歩きだす。三城は後を追ってくる。
「ついて来ないで」
「いや、教室に向かってるだけ」
じゃあ、仕方がない。向かっている方向は同じだ。ペタペタと足音が重なる。
「彼女はどうしたの?」
「特定の子なんて作ったことないけど?」
ろくでもない男。相手は本気だと知っててその所業だ。
「そのうち刺されるからね」
三城は笑い飛ばして「本気になんてならないって言ってあるし」と言い放った。
「サイテーだな」
三城はさらに笑うが、笑いが収まったところで言う。
「本気じゃなくてもいいってさ。いっときでも夢みたいんだと」
そんな言葉が心を抉る。ほんの一瞬でも天使になれるならその後地獄に堕ちてもいい。そう思いながらなぜか地獄にはさっさと堕ちていて、もがく私は滑稽だった。
最初のコメントを投稿しよう!