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 待ち合わせはきっかり午後5時30分。  黄昏時は街をセピアにかえる。何もかも。 「『持たせた』」 「『待ってないよ』なんてね」  寄り添う二人も幻想的でやたらとキレイ。天使は今日も神々しくて光っている。 「ごっこ遊び? 楽しそうなことやってるじゃん」  背後に人が居るなんて思ってもないから、全身が凍りつく。いや、でもここは冷静に平静に。 「暇つぶしにね」  振り返らなくても声の主は三城(みき)だとわかっていた。長身のろくでもないスポーツマンもどき。ろくでもないのは私の方だけど。歳上の彼氏は今年に入って5番目の男。カウントダウンは始まっていて、そろそろエンドロールが流れる頃合い。いうなれば黄昏時と同じ。もうすぐ終わる、苦い1日。 「あれは天使ちゃんと葵か」  渡り廊下の窓から二人が正門を出ていくのを見送った。清楚な天使ちゃんこと佐子ちゃんは性格もいいらしい。対して葵も稀に見る好青年。 「俺たちと正反対なのな」 「三城は一見、爽やか好青年だから葵寄りだけど」 「一見な」  爛れた女関係を除けば、その不名誉な一言はなくなるのに、残念な男だった。 「で、小鳥遊(たかなし)は帰らないの? 彼氏のお迎え待ち?」  帰るよとぶっきらぼうに言うと歩きだす。三城は後を追ってくる。 「ついて来ないで」 「いや、教室に向かってるだけ」  じゃあ、仕方がない。向かっている方向は同じだ。ペタペタと足音が重なる。 「彼女はどうしたの?」 「特定の子なんて作ったことないけど?」  ろくでもない男。相手は本気だと知っててその所業だ。 「そのうち刺されるからね」  三城は笑い飛ばして「本気になんてならないって言ってあるし」と言い放った。 「サイテーだな」  三城はさらに笑うが、笑いが収まったところで言う。 「本気じゃなくてもいいってさ。いっときでも夢みたいんだと」  そんな言葉が心を抉る。ほんの一瞬でも天使になれるならその後地獄に堕ちてもいい。そう思いながらなぜか地獄にはさっさと堕ちていて、もがく私は滑稽だった。
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