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「小鳥遊さん」  放課後の教室は黄昏色に染まっていた。 「あ、はい」  声が裏返りそうになりながら振り返ると葵が立っていた。 「今から帰るとこ?」 「ああ、うん」  会話が続かなくて気まずい。耳障りな鼓動の音が思考を掻き乱すから何も考えられない。 「塾で知り合ったM高のヤツがどうしても小鳥遊さんの◯INE知りたいって言ってて。迷惑だと思うんだけど、悪いやつじゃないし。教えてあげてもいいかな」  耳障りな鼓動を打ち鳴らしていた太鼓はバチを失って、何も鳴らさなくなった。虚しく床に落ちたバチが転がっていく。 「でも……」  葵のお願いでもそれは嫌だった。登録して速攻でブロックしたら葵に迷惑がかかるかもしれないし、だからと言って付き合ったりはしたくない。葵と繋がりのある人となんて……あり得ない。 「佐子ちゃんもそいつならオススメできるって言うからさ」  天使からのオススメは絶望過ぎる。断れば罰が当たる。きっと、そう。 「その話、悪いけど断って」  廊下側の窓から覗く長身の男。三城は肩にリュックを掛けて不機嫌に会話に入ってきた。 「ああ、三城。部活は?」  葵は三城の登場に驚きを隠せない。きっとそれほど話したこともないのだろう。住む世界が違いすぎる。 「これから。それより小鳥遊に男紹介すんのやめてくんね?」  気の利いた言葉を探す割に、頭に浮かぶのは短くてつまらなくて単刀直入の『ナゼ』だけだった。 「俺たち付き合ってんだよ。だから、やめといて」  三城の意外な言葉に葵は慌て、私は息を止める。 「あ、そうなんだ。それはごめん。じゃあ、それだけだから」  葵は謝って去っていく。完全に姿を姿を消してから三城も動き出した。 「貸しな」  余裕のなかった私とは違い、三城は気の利いた嘘をついて夕陽に溶けていった。
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