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冬
テスト期間、帰宅時間は早く、ぞろぞろと生徒が一斉に帰路につく。
下駄箱までペタペタと歩いていくと、靴を履く三城の横に女の子が何やら絡みついている。
「一緒に帰ろうよ」
「いや、ムリ」
三城は酷くあっさり一刀両断。
「もう一回だけ一緒にどこか行きたいんだってば」
「いや、マジでムリ」
掌に人人人と描いて飲み込む。三城ほど上手くやれるかわからないけれど、やるしかない。
「えっと、佐藤さん」
親しくない隣のクラスの女の子。呼び掛けたら相手もギクリとこちらを向いた。
「あの、私、三城と最近付き合い始めたんだよね。悪いけどもうこの人佐藤さんとは遊べない」
ごめんなさいと心で付け加えるくらいの良心はある。涙目になられたら殴りつけられたみたいな衝撃も受ける。傷付いたことがわからないほど鈍感でもなかった。
「付き合ってるなら付き合ってるって態度に出しててよ!」
八つ当たりもわかるから「そうだよね」と間抜けな返事。それが気に障って佐藤さんが私を押したのも理解できた。下駄箱にぶつかって痛いけど、佐藤さんは今もっと痛い。
怒りに任せて靴を履いた佐藤さんが駆け出していく。外はどんより曇天で、雪でも降りそうな厚い雲だ。
「貸し、返した。てか、地獄に落ちるよ?」
呆気に取られていた三城をひと睨みしてから動き出す。肩が痛くて悲しくて。
「落ちてる、とっくに」
三城は神妙に言ってから「ファミレス行こう。奢る」と付け足した。
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