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二年前の秋、おいちゃんは父ちゃんと喧嘩をした。
電話を受けて血相を変えた母ちゃんに連れられて姉ちゃんと、婆ちゃん家に向かった。
何故か爺ちゃんが包丁を握っていた。
爺ちゃんは聖司と姉ちゃんを見て、冷静さを取り戻したのか、握った光り物をテーブルに置いて気不味そうな顔をした。
「出ていけ」
父ちゃんは、静かにおいちゃんに言った。
おいちゃんは何も言わずに玄関へ向かい、母ちゃんが聞いた事のない声を上げて止めに走る。
姉ちゃんはきょとんとしていたし、聖司もただ胸がどきどき苦しくなるばかりで、この場にふさわしい言葉を見つけられなかった。
おいちゃんは母ちゃんを振り切っていなくなった。
直ぐには誰も追わなかった。
婆ちゃんが父ちゃんを責めた。
その夜、聖司は遅くまで、母ちゃんと自転車で近所を探し回った。
父ちゃんと姉ちゃんも、バスで駅へ向かったようだった。
おいちゃんは見つからなかった。
母ちゃんが「警察に」と訴えたが、婆ちゃんは受け入れなかった。あと二、三日探してみて、それでも見つからなければと条件をつけた。皆はそれに従うしかなかった。そういう家庭だった。
二日後に河川敷でおいちゃんの車が見つかった。
警察からの連絡を受けたのは母ちゃんだったらしい。
聖司も駆け付けたかったが、母ちゃんに泣いて止められた。
ツートンのミニカ72と、古くて大きな真空管ラジオと、半田鏝と、多種多様なケーブルと、モーターショーの本と、湿布の匂いは置いてけぼりになった。
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