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「あの、ごめんなさい。どういう意味ですか?」
「すみません、混乱しますよね。僕も何でこんなことしてるんだろうって思ってますよ、毎回。でも意外にこういうよく分かんないことで人間の本性とか見えるんですよ」
ハハッと古谷さんが柔らかい笑みを浮かべる。先程まで抱いていた印象とは一変、今はただの爽やかな好青年だ。女に刺されそうなんて印象、微塵もない。
「役者としてじゃなくても、生きていく上できちんと自分の意見を述べることっていうのは大事なんです。ちゃんと嫌なものは嫌って言える人が、結局成功するんですよ。これ持論なんですけどね」
何かそんなことを最近本で読んだ気がする。有名なビジネス書を父が持っていたので、暇なときに勝手に読んでいたのだ。
「勿論、所属しているタレントには全員売れてほしい。けれど僕が見れる人間も限られている。そんな中、一人でも多くのタレントを有名にするのが僕の目標です。その為にいつもマネジメントをする前にこういった見定めをしているんです」
言っていることが分かったようで分からない。何だか今は何を言われても無駄な気がした。
「そして上から目線で申し訳ないんですけど、美音さんは素質があると確信しました。きちんと自分の意見を言える、何でもイエスとは言わない、やりたくないことはきっぱり言う。素晴らしいです。美音さんにとっては当たり前かもしれないけれど、案外それができない人が多いんですよ」
そこでやっとこの男が日本語を喋っていたことを思い出す。美音は突然の質問に「えっと」と慌ててしまった。
「美音さん。僕に、貴方のマネジメントをさせてもらえませんか? 約束します。貴方を高みに連れて行くって。そしていつか、美音さんが芸能界に入った切っ掛けにもなったあの人と同じ土俵に立たせます。美音さんの実力で、必ず注目の的にします」
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