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オーディションを何度受けても受からない。美音より後に所属した子たちは次々とオーディションに受かり、有名になっていく。何度レッスンをしてもしっくり来る演技ができない。自分は見向きもされない。いつも大人たちの視線は別の子に向けられている。
いつしかそれが悔しいという感情から、「だよね」という軽い感情になった。オーディションに落ちても「だよね」。悔しいなんて感情、もう久しく感じていない。思い出すことも難しかった。
高校生になって、受験勉強をして、大学に進学して、新しい友達ができて、アルバイトをはじめて、イケメンの同級生にキャッキャ言ったり、友達とオシャレなカフェに行ったり、サークルで人脈を広めたり。いつしかカメラから遠ざかった生活をしていた。唯一意識するのはスマホで盛れる写真を撮るためで、それ以外で特にカメラを思い出すことも、意識をすることもなかった。
恋愛をしても、無名の自分が大手の週刊誌に写真を撮られることはない。だからスキャンダルを恐れることもなかった。
それなのに、この空間で古谷さんと話していると、脳裏にはカメラのレンズの輝きがチラチラと過ぎるばかりだった。美音は今、強くカメラを意識させられていた。人前に立つこと、演技をすることを強く意識させられていた。
自分が遠ざけていたことを、この男は目を逸らすことを許さない。そう、穏やかな目の奥に隠れている冷たい視線が物語っていた。
「美音さんももう20歳。留年しなければ2年後には大学を卒業します。そろそろ芸能界についても真剣に考えないといけません。僕としては、美音さんが引退するのは惜しいと思っています。貴方はまだ本領を発揮できていないだけだと。ですが美音さんも美音さんで何かきっかけがないと、この仕事一本で生きていこうとは思わないでしょう。だから今のうちに注目を集めるのです──炎上で」
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