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現在20歳、芸歴10年、オーディションは落ちっぱなし、有名になれる兆しゼロ。
「美音さんを、僕にプロデュースさせてください」
あ、と言いそうになった。この人は自分を見てくれている。古谷さんの瞳には美音が映っていた。今まで誰の瞳にも映らなかったのに。
「……多分、今まで担当してきた人と比べたら私はへなちょこだし、かなり手強いと思いますよ?」
「やりがいがあります。それに、今までマネジメントしてきた子たちも決して最初からとんとん拍子に行っていたわけじゃないですよ。皆、最初は美音さんと同じ無名から始まってますから。オーディションだって何百回も落ちてますし」
「そうなんですか?」
「そうですよ。今は有名な人たちも、誰しもオーディションに落ちてるんです。最初から成功する人なんていません」
ニコッと古谷さんが笑った。その犬みたいな笑顔に、美音は小指を伸ばした。
「約束、守ってくれますか?」
「勿論。でも僕だけの力では無理なので、美音さんも本領発揮してくださいね。僕が思うに、今の美音さんにはまだまだ秘められた何かがあります。しっくり来た演技できてないでしょう?」
「……さすが敏腕マネージャーですね。鋭い」
「恐縮です」
古谷さんが美音の小指に自分の小指を絡ませた。何だか小学生に戻ったみたいだ。指切りげんまんなんていつぶりだろうか。
「僕が美音さんのスポットライトになります。美音さんの注目を集めます。だから美音さんは、目一杯輝いてください」
美音はこくりと頷いた。この人となら、思い出せる気がする。
(了)
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