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不思議な声の主はヴェズルフェルニルであり、彼はまだ何も言っていないアーニの心の内をずばりと言い当てる。
「わたしはアナタの決めたその覚悟を支持し、応援致します。アーニ、賢きメスのフェンリスヴォルフ。アナタにも必ず幸福は訪れますことをわたしは約束します」
それきりヴェズルフェルニルの声は聞こえなくなった。アーニはその場でぺこりと頭を下げると、バスケットをくわえて再び歩き出す。
アーニは魔物達が眠り静まり返った暗闇の森の中を歩く。黙々と歩き続け、アーニは森を出るとニンゲンの住む大きな街へとやって来た。
夜半なこともあり、外を歩いているニンゲンはいない。なのでアーニは街中を堂々と歩きながら、品定めするように辺りをキョロキョロと見回す。
すると裕福そうで温かみのある外装の屋敷を見つけ、アーニはその門前にそっとバスケットを下ろした。
バスケットの中では愛娘が可憐な寝顔で眠っておりアーニはつい見入ってしまったが、我に返ってぶんぶんと頭を左右に振る。
セラフィーナに背を向けてアーニが歩き出そうとしたその時、
「ママ、マーマ、ママァ」
楽しそうな声色で自分を呼ぶセラフィーナの声にアーニの足は動かなくなる。
「ママ、ママ……」
いつもなら直ぐに構ってくれるアーニの反応が鈍いことにセラフィーナは不安を感じたのか、段々と声が弱々しくなり──
「ふぇ、ママ、ママー!! ふわぁあぁんっ!」
遂には泣き出したしまった。すると屋敷の部屋に明かりがパッと灯り、アーニは全速力で駆け出した。
「奥様、子どもです! 女の子です!」
「まぁこんな夜更けに! 早く中へ入れてあげて!」
背後から聞こえるニンゲンの声にアーニはホッとすると、ボロボロと涙を溢した。
森へと戻ったアーニは三日三晩大きな咆哮を上げて泣き続けたのだった。
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