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俺は郊外の隠れ家に着くと、相棒の佐藤に尋ねた。
「金は集まりそうか?」
佐藤が俺にちらりと視線を寄越すと、それから大きく溜め息を吐いた。
「だいぶ集まったけど、まだ足りない。伊藤の方はどうだ?」
「俺も血眼になって金を集めたが、組織から要求された額まではいかない。三ヶ月以内に五千万なんて組織の幹部連中も無茶なことを言うよな」
俺達が悩み苦しんでいるのを嘲笑うように、テレビでキャッシングのCMが流れていた。即日融資をしてくれる『タコさんローン』というのがあるらしい。そんな簡単に金が手に入れば誰も苦労しない。
三ヶ月前、俺達は組織の幹部に脱退させて欲しいと話した。その時に出されたのが三ヶ月以内に五千万集めて組織に払えという条件だった。払えなければ、組織から抜けることは永遠にできないと言われた。
組織の幹部と直接会ったことを思い出すと身体の芯に震えが来た。淡々とした口調だったが有無を言わせない圧力を感じた。もし組織に逆らって逃げようとしたら、躊躇なく俺達は殺されるだろう。
俺は二人で集めた金を数えた。うずたかく積まれた金の山だが、四千万だった。あと一千万足りない。もう時間がない。
俺達はどうにか金を用意できないだろうかと期限ぎりぎりまで話し合った。しかし話し合いを進めれば進めるほど、非情な結論に辿り着いた。組織の狙いは最初からそれだったのではないだろうか。
俺達は二人とも裏世界で追われる生死を問わない賞金首だった。俺達はお互い涙を流しながら殺し合いをした。死闘に勝利した俺は大金を得て組織を抜けることができた。でも俺の身体は喪失感に絡みとられた。
俺はもう自由の身になった。佐藤を殺して大金もある。でも佐藤がいない世界をのうのうと生きるのは耐え難かった。俺は縄を結うと天井から紐を垂らした。
最期に思い浮かんだのは、佐藤の死ぬ間際の笑顔だった。殺し合いの中で佐藤は俺のためにわざと手を抜いてくれたのではないだろうか。佐藤ごめんな。俺はもうこの世にいない佐藤に謝りながら、首に紐を括ると下に置かれた台を蹴り飛ばした。
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