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コテージのキッチンで、蔵人は鮎に串打ちをしていた。
「なにか、手伝えることはあるか?」
振り返ると、綺紗羅が立っている。
「だって、魚扱ったこと、ないんだろ」
自分が何かを言った訳ではないが、あの状況で話を聞かれていたら、まるで蔵人も友人たちに混ざって陰口を叩いていた…と思われても仕方がない。
そんなことはしていないが、だからといって積極的に彼らを諌めるような態度も取っていなかった。
そう考えると、どうにも後ろめたさが先立って、蔵人は上手く言葉が出てこなかった。
「だが、その数を一人で扱うのは大変だろう? 教えてくれれば、手伝えると思う」
「…じゃあ、俺が串を打ったのに、塩をしてくれ」
最初に手本を一つして見せると、綺紗羅はおぼつかない手つきで作業を始める。
「とても…気を使ってもらって、済まないと思っている」
「なにが…」
やはり話が聞こえていたのかと思いつつも、蔵人は話をはぐらかした。
「…私は、幼い頃に母に勧められて、子役のカメラテストを受けたんだ」
「へ…へえ。やっぱり、女優の子供になると、そうなるんだ?」
唐突に話しだされ、蔵人は戸惑った。
「だが、私は人見知りで、カメラを向けられたのが怖くて泣いた」
「え…ええ……?」
「私の性格はその後も特に変わらず、母の仕事仲間や周囲の者にモデルや子役を勧められたが、全然気乗りがしなくて…」
「まぁ、そういうのは、性格とかあるしな」
「この人見知りの所為で友人もできにくいんだが、この顔の所為で余計な勘違いをされやすくて、更に友人が出来ない。だから私は、だんだん自分の顔が疎ましく思えて…な」
「それで、顔の話をされると怒るのか?」
「怒っている訳じゃないんだが。どうしても、気に触ってしまって…」
「…ごめん。アイツらも別に、悪気が合ってのことじゃないとは思うが。やっぱり他人のそういう事情も知らないで、あんな風に言うのは間違ってるよな」
「いや、周防が謝る必要はない」
蔵人は、少し考えてから口を開いた。
「うん。ただ、俺はアイツらが話をしてる時、止めなかったから、ちょっと申し訳なく思ってるんだよ。…ただ、その、ヒトってのはないものねだりと言うか、平凡な目鼻立ちだと、イケメンに嫉妬しちゃったりするし。美咲が自分の顔にコンプレックスを持ってるなんて、想像も出来ないんだよ」
「なるほど」
「それに、美咲はいつもあんまり感情を外に出さないから、急に出されるとびっくりしちゃうんだよ。気に障る話をくどくどされたら、そりゃ普通に腹が立つと思うけど、顔を褒められたら、羨まれてるんだってまずは一呼吸おいた方がいいんじゃね?」
「そういう解釈もあるのだな」
「てか、母ちゃん有名女優なんだろ? 子供がトラブル起こすと、フツーの家と違って、色々面倒な話になったりするんじゃねぇの?」
そこで綺紗羅がなにか言おうとしたが、どかどかと乱暴な足音がこちらに近づき、キッチンに冬馬が入ってきた。
「クラちゃーん! 魚の処理終わった? 夜の肝試しのコース、明るいうちに回って、目印つけた方が良くない?」
「えっ? いや、まだ終わってない」
「あ、串打ち? じゃ、僕も手伝うからさ。さっさと終わらせよう!」
そこで冬馬が加わったためか、綺紗羅はそれ以上、自分の話をするの止めてしまった。
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