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夏休みが明け、新学期になった。
蔵人はいつもどおりに学食で弁当を、一緒に付いてきた綺紗羅はそこでランチプレートを食べていた。
「ク~ラ~ちゃん!」
背後に飛びついてきた冬馬に、蔵人は疲れた顔で振り返る。
「元気だな、オマエ」
「むしろ、クラちゃん元気なさすぎじゃない? どしたん?」
「こう暑くっちゃ、やってらんねぇって」
「ねえ、そっちのクラス、文化祭の出し物、なにになったの?」
「段ボールアート」
「なにそれ? 小学生の自由研究じゃなくて?」
「教室めいっぱいつかって、巨大ロボを作るんだと」
「すっごい他人事っぽい言い方してるけど…?」
隣の綺紗羅は、不思議そうな顔の冬馬に向かって、蔵人と同じくらい正気のない目をして頷いた。
「出し物を話し合う場で、最初に吹奏楽部と管弦楽部の者が、練習があるのでクラス発表の出し物には、あまり参加できないと言い出した」
「あ、やっぱそっちでもあったんだ」
「今年、吹奏楽部と管弦楽部は、合同でオーケストラをやるらしい」
「そしたら、漫研と映画部の奴らが、自分たちもヒマじゃないとか言い出したんだよ」
ため息交じりに、蔵人が言った。
「もしかして、話し合いモメたん?」
「ヒマじゃないという一言がきっかけで、話し合いの時間の半分ほどは、口論だった」
騒然と教室での騒ぎを思い出したのか、綺紗羅は暗い目をして言った。
関係のないクラスメイトにしてみれば、完全に蚊帳の外の置いてきぼりだが、当事者の生徒たちは自分の主張と相手の謝罪を引き出すために、かなり頭に血が上っていて、教室内はいっとき騒然となったのだ。
「それがどうして、段ボールアートになったの?」
「結局、騒いだ連中が積極的な参加を拒否して、だからって残った者に全部のしわ寄せがくるのも良くないだろうって話になったんだ」
「そこで突然、クラスメイトの上村という者が、ならば労力を自由参加型で自分に力を貸してくれと言い出した」
「ナニモン?」
「構造設計だが、機械工学だかが趣味の、ロボットオタクだよ。上村が言うには、以前から図面だけは大量に描いてきたが、時間も労力も場所もなくて実行に移せたことがなかったとか言ってて」
「本当は本格的なロボットを作りたいが、文化祭のクラス発表程度の予算では不可能なので、素材を段ボールに限定した、変身の出来るロボットが作りたいと言い出した」
「それで、みんな、納得したの?」
冬馬は、ドン引きしている。
「一瞬、空気は凍ったんだけどな。でも、上村の図面通りに段ボールを切ったり貼ったりするだけで済むなら…って話になって。参加拒否の連中も、一度でも手伝えばクラス参加したことになるって話に飛びついてさ。結局、そうなった」
「ほえ〜、壮大だけどちっちゃい話になったんだねえ」
「そういう、そっちのクラスはどうなったんだよ?」
「ウチのクラスは喧嘩にはならなかったけど、やっぱり吹奏楽と管弦楽が手伝えないって言い出して。最初は喫茶店って言ったけど、人数的に苦しくなるから、フォトプロップスになった」
「なんだ、そりゃ?」
「自撮りが出来るご休憩スペース的な? インスタ映えするポップと、校章をバックに写真撮れる舞台、それに飲食物持ち込み可のテーブルと椅子を用意するんだって」
「そっちはそっちで、手抜き感満載だな…」
「まぁ、楽は楽なんだけど、全然文化祭に参加しました感は薄れるよね」
そう、冬馬が言った時だった。
「君たち、それなら力を貸してくれないかい?」
唐突に声を掛けてきたのは、見知らぬ人物だった。
「僕は片桐、2年生だ」
「ご要件は、なんですか?」
「実は僕は、演劇部の部長なんだが。ウチの学校は男子校なので、演劇部の部員が非常に少なくて、手が足りないんだよ」
「別に、演劇部に興味はないですけど…」
「別に部に勧誘している訳じゃないよ。ただ、臨時に裏方が足りない手を探していてね。良かったら手伝ってくれないかい?」
「へえ〜、なんか面白そう」
興味を持った冬馬に、蔵人はハッとなった。
「あの、お話はわかりました。どうするか考えて、先輩のクラスにお返事に行きますので」
「えっ、クラちゃん?」
「そうかい? じゃあ、色よい返事を待ってるよ」
未練を残した冬馬を急き立て、蔵人はその場を離れた。
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