最終回がやってくる

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分からないけど、じいちゃんだって人によってはただの紙切れに過ぎない切手を後生大事にとっていたんだもんな。小さいけど人の形をしているこいつらに情けをかけてくれたんだろう。 それに数もハンパないしな。 新聞紙を広げて箱の中身をひっくり返してみた。 独特のいかにも人工物ですという匂い。そう、これこれ。 デフォルメされたキャラ達を手に取ってみる。 鉄骨マン、サリンマスク、担々麺マン……今でもちゃんと名前を覚えてる。 それどころか、これはあいつと交換したとか、これはあの店で買ったとか、ゲットした時の記憶までおぼろげながら蘇って来る。うわ、なにこの特別な感情。 自慢出来る様なレアキャラも当然持っている。 だけど、今でもこの消しゴムをどうしても欲しいマニアがいたとしても、やったぜと売りに出すのは気が引ける。逆に1ペソにも1元にもならないとしても、不燃物に出すのは忍びない。 将来プレミアが付くかもしれないとか、そんな事はこれっぽっちも頭になかった。 友達に自慢したかったから。仲間に入りたかったから。それもあるけど、ただ純粋に欲しかったから集めた宝物。 あの頃の俺の笑顔の何割かを(にな)ってくれたこいつら、まさにプライスレス。 正直、まあいいかと捨ててしまえばそれはそれでさっぱりしたりもするのだけど、なかなかそうは行かないのが人間だろうと思う。 そりゃあ今更こんな物で遊んだりしないさ。 話のタネにはなるだろうけど、そんな話が出来る奴が何人くらい残っているのやら。 もういないのかもしれない。 「ふう」 ちょっと片付けに疲れた俺は、誰もいないのにわざと大きなため息をついて、散歩に行く事にした。 五月の空は雲一つ無い、日本晴ってやつだ。気持ちいい。
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