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僕は空中から僕自身を見下ろしていました。
醜くひしゃげた身体。赤く広がる血溜まり。飛び出た目玉。
ああ、死んでしまった。これから楽しくなるはずだったのに。
「それは残念だったな」
目の前に巨大な人影が現れました。黒いマントに身を包んだ巨人です。
誰?
「人間の言うところの死神だ」
巨人は僕が声に出さなくとも考えを読み取って答えました。その時、黒いフードが捲れて巨人の顔が見えました。髑髏です。マントからにょきにょきと骸骨の腕が延び、片方の手には大鎌が握られていました。
そうか。僕は不運で死んだのではない。この死神に命を刈り取られたんだ。
「理解が早くてなによりだ」
死神は僕をヒョイと摘んで持ち上げました。
「お前は命を集める極悪人だ。奇遇だが、私もだ。私はお前のような悪人の魂を集めるのが趣味なんだ」
死神は懐からガラス瓶を取り出しました。人間が百人は入りそうな巨大な瓶です。死神が瓶の蓋を開けると、中には幾人もの死体が入っていました。いえ、それらは死体ではなく、ヒトの形をした魂たちです。
魂たちは怨み、憎しみ、哀しみ、苦痛、怒り、様々などす黒い感情が混じり合う、気の狂いそうな声をひたすら発していました。
「心地よい音色だろう……。見ろ。上っ面の魂は原型を留めているが、下にいくにつれ肉が腐り、内臓は溶け始めている。更に底の方では骨化した者たちが上の重みでバラバラになっている。それでもこいつらは魂のまま、瓶の中で意識を保ち続けるのだ。お前も、瓶の中で永遠に私を楽しませろ」
僕は瓶の中に放りこまれました。
先住民の上に落ち、背中でぐしゃりと何かが潰れました。下から痛い痛いと恨み節が聞こえます。見れば僕の腹から白い骨が突き出ています。誰かの折れた骨が刺さったのです。
頭上の蓋がしっかりと閉められました。
僕は激しい痛みに呻きました。瓶に詰められたダンゴムシの様に、必死に身を捩りました。そんな僕を、瓶の外から髑髏が眺めて笑っています。
僕はハッと気付きました。
これはきっと、ダンゴムシが見ていた景色なのです。
因果応報とはよくいったものですね。僕はこれから永遠に瓶の中のダンゴムシであり続けるのでしょう。
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