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第4話 和やかなる星影の下に(6)
ルイフォンの腕の中で、メイシアの呼吸が揺れた。彼の背に回された手が、髪先を留める金の鈴に触れ、一本に編まれた髪にくしゃりと絡める。
ルイフォンもまた、彼女の黒絹の髪に、すっと指を通した。優しく掬い取るようにして、くしゃりと撫でる。
互いにまだ、『弱い』存在なのだと、実感する。
――けれど、『ふたり』なら……。
メイシアはルイフォンを仰ぎ見た。まっすぐな黒曜石の瞳に、彼も目線で応える。
そして、ふたりは、同時に頭を下げた。
「シャンリー、俺たちのために言ってくれて、ありがとう」
ゆっくりと。
ルイフォンは、テノールを響かせる。
「――けど。俺たちは、ふたりで考えて、肚を据えて『ライシェン』と向き合うと決めたんだ。なのに、俺たちはまだ『ライシェン』のために何もしてやっていない。……だから、まずは、自分たちの力で足掻いてみるべきだと思う。シャンリーの申し出について考えるのは、それからだ」
「ルイフォン……」
戸惑うように、シャンリーは瞳を瞬かせた。
「シャンリーさんのお話は、本当にありがたいと思います。けれど、今、それに甘えてしまったら、まだ何もしていない私たちは、楽をする道を選んだだけになってしまいます。……それはきっと『違う』と思うんです」
迷いのない澄んだ声で、メイシアがルイフォンのテノールを繋ぐ。
ルイフォンはメイシアの手を握りしめ、わずかに逡巡した。……けれども、静かに続ける。
「〈蝿〉は、『ライシェン』の『処分』をも口にした」
「!」
シャンリーが顔色を変えた。しかし、ルイフォンは畳み掛ける。
「命と向き合い続けた『ヘイシャオの記憶』の言葉は、決して軽くはないはずだ。そして、『ライシェン』には、そう言わせるだけの背景がある。――でも、俺たちとしては、『ライシェン』には、『人』としての幸せを贈ってやりたいと思っている」
ルイフォンに同意するように、メイシアが頷く。それを弾みに、ルイフォンは決然と告げる。
「なのに、俺たちは『ライシェン』を『もの』扱いしていた。可哀想だよな。改めるよ。――俺たちは、本当にこれからなんだ」
覇気に満ちた顔で、ルイフォンは笑う。どこに続くか分からない、遠い道を見据えながら――。
その瞬間、シャンリーは呆気に取られたような間抜けな顔になり、やがて、面目なさそうに、ベリーショートの頭をがりがりと掻いた。
「なんか、綺麗にまとめられちまったな」
「悪ぃ」
「別にいいさ。――ただ、お前たちは何もかも、ふたりきりで背負いすぎだと、言いたかったんだ。もっと、レイウェンと私を頼ってほしい。……『きょうだい』だろう?」
「ああ、そうだな」
ルイフォンは即答した。シャンリーが、どんな意味で『きょうだい』と言ったのかは不明だが、肯定以外の答えなど、あるはずもなかった。
シャンリーは、はにかむように破顔し、ひと呼吸を置いてから続ける。
「それにな、『ライシェン』を草薙家の子にしたいというのは、お前たちのためでも、『ライシェン』のためでもない。私たち自身が『ライシェン』に来てほしいんだ」
「え?」
「『ライシェン』のことを聞いたとき、そんな星の巡り合わせもあるのかなと思ったよ」
謎めいた笑みを浮かべ、彼女は視線を窓へと移す。
「ちょっと、庭に出ないか? ……星が、綺麗だと思うんだ」
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