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「はぁ、ダメだー!!」
バタリと後ろに倒れる自分の横では、今も練習を続ける男の姿。
意外と真面目なんだなと思いながら見ているが、やはり男も上手くいかない。
いつまで続けるのだろうかと思いじっと見ていると、男は不意に女へと視線を向けた。
「何?」
「あー……真面目だなと思って」
「お前ももう少し頑張ったらどうだ」
「はいはい、どうせ根性なしですよ」
男の言葉にムッとし起き上がると、女は再び念じ始める。
それからどのくらい経ったのかわからないが、女の水鏡に少しずつ変化が現れた。
水鏡の表面が波打ち始め、ようやく人の世界が映し出される。
「やった!! 成功した!!」
喜ぶ女の横では、男が今も練習を続けており、その様子をじっと見守る。
一緒に生まれ、一緒に今まで学んできた。
できることなら、二人で天使になりたいと女は望んでいた。
だが、結局男の水鏡に変化はないまま授業が始まってしまう。
「よくやったわね。これで貴女は、今日から立派な天使よ」
そう言い渡されたのは、天使が持つ本物の水鏡。
これで天使として認められたのだと思うと、嬉しい反面、寂しさが残り、男をチラリと見る。
すると、男の回りに何やら黒い影が見えたような気がしたが、女が瞬きをした一瞬その影は消えてしまった。
「それじゃあ貴女には授業が終わった後、初の天使の仕事をしてもらいますね。今まで学んできたことを忘れないようにするのよ」
女は最後の授業を受ける。
この授業が終われば、天使としての仕事が始まるのだ。
だが、男とこうして授業を受けるのも最後だと思うと、やはり何だか寂しいものがある。
それから時間は経ち授業も終わると、女の天使が他の天使に呼ばれたため、しばらくの間待つこととなった。
その場に残ったのは男と女の二人となり、気まずくて声がかけられずにいると、男がその場から去ろうとしたため慌てて呼び止めた。
だが、振り返った男の瞳はとても冷たく、思うように声が出なくなる。
そんな女を放って、男の天使は飛び去ってしまう。
あの瞳を見た瞬間、まるで全身が凍りついたかのような感覚になった。
このまま男を放っておけるはずもなく、女は男を追いかける。
すでに男の姿は見えなくなっており、一体何処へ行ったのだろうかと、この白い世界の中で男を探す。
すると、何やら天使が集まり騒がしい場所を見つけ、気になった女はその場所へと降りた。
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