一冊の本

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一冊の本

 長い昼休みは、いつも図書室で時間を潰す。なぜなら、本と語る方が楽だからだ。     決して、友が要らない訳じゃない。不器用を晒し、赤の他人より遠くなることを恐れているのだ。なら、最初からいいや、なんて。  結果、二年中期に入っても、私は一人ぼっちだった。  元から本に吸われる性質があり、図書室は最高の退屈凌ぎになった。それでも、〝このままで良いのか〟との疑問は頻繁に芽吹くが。  我が校の図書室は、はっきり言って過疎化している。  元々が児童の少ない学校だ。加えて、本の数も地元図書館の半分以下。更に、部屋自体が狭いとなれば透明化されるのは当然だろう。  と言うことで、図書室は毎日貸し切りだった。 *  丸一年通い詰めたからか、本は大体読破した。最近では、未読のものを探す方が難しい。  最初からこうなる事を見越し、端から読み進めれば良かった。そうすれば、見つからないままタイムオーバーの悲劇も減ったのに。  壁際から順に、棚の前をうろうろする。初対面のタイトルを探し、目を凝らして背表紙を見ていく――。  ある棚の端、一冊の本に気づいた。奥の方に追いやられている。妙な隙間を発見し、覗いてみたところ見つけた。  指先を滑らせ、上部に引っ掛ける。隣を巻き込むこともなく、本はするりと抜けた。文庫本ほどの本が現れる。  ――ん?  違和感が、どんな情報より先に飛び込んだ。  白い。とにかく白い。本当に真っ白で、ロゴ一つ描かれていない。これでは、印刷前の状態そのもの――いや、あえての無地なの!?  目線を変えれば、不思議と斬新な装丁にも見えてきた。違和感というものは、魅力になる素質を秘めているらしい。  こんなにワクワクする本が、眠っていたなんて!  内容を想像する為、自然の流れで背表紙を見る。 「えっ……」  固い本の背表紙には、手書きのタイトルがあった。綺麗な文字で〝僕は恋心を知らない〟と書かれている。  指先で、文字を少しなぞってみる。一瞬、手書き風の字体を疑ったが、インクの滲みなどが明らかに印刷とは違った。  もしかして、これは。  確信を得るため、勢いよく開く。現れたのは、ボールペンで紡がれた言葉だった。  瞬間、想像は確信に変わる。  これは、誰かが綴った物語だ。
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