一冊の本

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 本探しに時間を食べられ、結局三行ほどしか読めなかった。  ただ、私は本を借りる権限を持っている。図書委員の子は基本来ないし、教師は放課後のみの出現ゆえ、自由に持ち出してもいいとの許可を得ているのだ。  信頼を担保に、私は本を借りた。  自分だけの楽しみに胸が躍った。  午後の授業なんかは、聞いていられたものではない。教科書を立て、同じページを眺めたまま、本のことばかり考えてしまった。  内容や隠れん坊するまでの経緯など、物語でも作るように想像してしまう。教科書を盾に続きを――とは思ったが、教師の目が怖いのでやめた。  *  待ちに待った放課後、一番に教室を出る。  自由な視線が交わる中、表紙を晒せば、何人かはきっと特別な本だと気付いてしまう。それがなんだか嫌で、私は全力で帰宅した。  そうして、今から待ちに待った開本の儀に入る。  本日は金曜日で、土日は丸々フリー。いわゆる、好きなだけ本に没頭できるということだ。    どんな世界が、ここにはあるのか。  音も声も殺しながら、表紙を捲った。
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