一冊の本

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 物語の主人公は、恋心を持たない男子高校生。知らないではなく、持たないのだと強調されていた。  そんな彼がある日、同じクラスの女の子から告白される。けれど、当然彼は首を横に振る。 『僕は、貴方を好きになれないから』 『知っています。それでも私にチャンスを与えて欲しいんです。恋人ごっこでもいい、友達からだっていい。一度、私と付き合ってくれませんか?』  健気な願いに頷き、二人の物語は幕を開ける――。  読み進める度、周囲の音が消えていった。誤字が盛大に黒塗りしてあったりはするが、それでも集中を切らさずに読めてしまう。  情景描写、ストーリー、展開、どれをとっても上手い。  特に心理描写が精密で、理解不能なはずの主人公に化けた気になった。  最後、この二人がどうなるか楽しみだ――。  と、期待していたのも束の間、突然文字が消えた。切りのよいシーンで止まってはいるが、明らかに未完結だ。  ページを捲っても、空白以外何もない。当然、次も、その次も文字は無かった。  だが、最後のページに、やっと見つけた。 〝これを見つけた貴方には、素敵なプレゼントをあげます。一年の川田までご報告を!〟  楽しげなメッセージと共に、住所まで記載されている。  唖然とした。胸の騒がしさが、僅かに形を変え再始動する。  ――プレゼントもだけど、先が気になる。  こんな事なら、課題を済ませてから読むんだった。  後悔すると同時に、どうするべきか悩み始めた。課題には手すらつけられなかった。
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