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決意の冒険
結局、丸一日悩み抜いた末、私は電車に乗っていた。
目的地は隣町――そう、記載されていた住所へ赴くのだ。
大胆な行動に、自分でも驚いている。とは言え、実際にチャイムまで押せるかは別の話だ。
川田さんって、どんな人だろう。
女の子かな、男の子かな。明るい人かな、優しい人かな。
私を見て何を言うだろう。楽しく話は出来るかな。物語の続きは聞けるかな。
そもそも、ちゃんと会えるかな。
各駅で止まる度、爪先を出口に向けた。だが、続きへの興味が進行を阻止した。
それほどまでに、この小説は素晴らしい。もしかすると〝同じ学校の誰かが書いた〟との事実が、輝きを付与しているだけかもしれないが。
鞄の中に潜めた本が、折れていないか確かめる。何度も確かめ、川田さんの想像もする。
シュミレーションを繰り返していると、車掌が目的の地名を放った。
*
町が変わっても、景色はあまり変わらない。ただ、足を踏み入れたことがないからか、不思議と目新しくは感じた。
心だって、いつもとまるで違う。主に緊張で、後は少しの期待と好奇心。それらが押し合っている。
看板などの住所を頼りに、酔っ払いの如く進んだ。時には、勇気を出して見知らぬ人に声も掛けた。
まるで宝探しだ。宝の地図を持って、何が待っているか分からない目的地に向かう――こんな経験、高揚しない訳がない。
らしくなさを積み重ね、やっと記載の住所に着いた。
そこは、二階建てのアパートだった。蔦やヒビが、壁に模様を作っている。
周囲を警戒しながら、ポストを確認した。連なるポストの右端、川田の名前を見つける。苗字一つがあるだけで、名前は分からなかった。
ああ。ついにここまで来てしまった。
またも、爪先が反対を向こうとする。けれど、今までの勇気をゼロにしたくないと踏み留まる。
そんなふうに足を忙しくしながら、なんとか前進した。
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