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やっとの思いで、玄関前に辿り着いた。薄く埃を被った、インターホンに指先を向ける。寸前で止まる指は震え、逃走本能が行動を抑制した。。
帰りたい。怖い。でも、どうしても川田さんに会ってみたい。会って続きが聞きたいし、あわよくば――。
「あれ? 君どうしたの?」
階段の下方から、男性の声が聞こえた。勢いよく振り向く。まず頭が見えて、体が現れた。
「俺の家に何か用?」
その人は、見るからに歳の離れた男性だった。
それも、一つや二つ――いや、一回り程度ではない。言い表すならお父さん世代。年齢で言えば四十代ぐらいだろうか。
「か、川田さんのお父さんですか……!」
動揺し、挨拶も忘れて問う。男性はきょとんと目を丸くした。身に覚えがない、とでも言いたげだ。
「俺に子どもはいないよ。もしかして家を間違えてるとか? どこに行こうとしてたの?」
俊敏な質問に助けられ、次なる行動が決まった。
動揺の抜け切らないまま本を出す。せっかく綺麗に持ってきたのに、出す瞬間に引っ掛けて少し折った。
「あ、あ、あのですね、この本の最後にですね」
最終ページを開けたいのに、震える指が阻害する。動揺を深める私の横、男性が声を上げた。
「あぁー! そういうことか!」
「……え」
「その本、俺が書いたやつ」
「えっ?」
突然の告白で、脳内の言葉が姿を消す。
「はは、今になって見つかると思ってなかったなぁ」
「…………えぇ!?」
目の前の男性――作者の川田さんは、恥ずかしそうに苦笑した。
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