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「その本、借りるの?」
ふいに声をかけられて、優木千枝華は心臓が止まりそうになった。
振り返ると男子生徒が立っていた。真面目そうな黒髪に黒縁眼鏡が印象的だった。
司書の先生は準備室にいて、放課後の図書室は千枝華と彼だけだ。
「驚かせてごめん」
「大丈夫です」
驚きで心臓がばくばくしていた。
好きな作家の新刊が新着コーナーに並んでいたので、それを手にとったところだった。
「その作家、好き?」
「好きです。本格ファンタジーで、はらはらする展開も最後のどんでん返しもおもしろくて」
「だよね!」
彼は破顔した。
千枝華の胸がまたどきんと鳴った。
秋の暮れかけた日に照らされて、彼の笑顔が輝いて見えた。
***
「どうした?」
声をかけられて、千枝華は我に返った。
遠退いていたざわめきが耳に戻る。シャンデリアが光を乱反射させてきらめき、着飾った人たちがホテルの大広間にあふれて談笑していた。
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