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 彼は現代の財閥と言われる五百里グループのいわゆる御曹司だ。  高校で出会ったときにはすでに人気者で、校外にまで彼のファンはいた。  その彼の婚約者になれたなんて、今でも夢みたいだ。  手に持ったグラスのシャンパンを一口飲む。炭酸の刺激が心地いい。 「こんなところで、婚約者に捨てられたのかしら?」  意地悪な声にそちらを見ると、赤ワインを手にした花水木愛姫(はなみずきあき)がいた。きつい顔立ちの美人だ。深紅のマーメイドラインのドレスに(あで)やかな化粧。その身を飾るのは金の台座にきらきらとメレダイヤが輝くネックレス。大きなルビーの揺れるピアス。明るく染められた茶色の髪はくるくると巻かれて彼女をさらに華やかに見せていた。  飾り気のない千枝華とは対照的だ。シンプルなAラインのドレスに腰まである長い黒髪はストレートにおろしている。装飾品と言えば将周から贈られた控えめなダイヤのピアスだけだ。 「こんな地味な女じゃ、近くに置きたくもないわよね」  ふん、と愛姫は鼻で笑う。 「赤いドレス、とてもお似合いです」  千枝華は微笑を返した。  一つ年上の彼女はずっと将周を狙っていると有名だった。  将周が行く予定のパーティーには父親のコネをつかって参加して彼に近寄り、千枝華には攻撃的な態度をとる。  将周の婚約者になって数年、いろいろな女性から悪口を言われるのはもう慣れた。相手の思う通りにいちいち傷付いてやる必要はない、と気が付いてからは笑って返すことにしている。それでも内心は心臓がばくばくなのだが。
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