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「どうしたのですか、お嬢様方」
一人の男性が割って入った。
ダークグレーの落ち着いたスーツの男性だった。30歳ほどだろうか。柔らかな栗色の髪はふんわりとセンターでわけられていた。優し気な笑顔で二人を見る。
「私の婚約者がいかに素敵か、教えて頂いてました」
千枝華は笑顔のまま答える。
ほっとした。他人の目がすぐ近くにあれば愛姫も自重してくれるだろうと思った、のだが。
「よく言うわ! 図々しい!」
愛姫は手に持ったグラスを千枝華に向ける。
千枝華はとっさに目をつぶり、両腕で自分をかばう。
が、予想したしぶきはいっこうに訪れず、周囲から軽い悲鳴が上がった。
「落ち着いて」
愛姫をなだめる声がして、千枝華はそっと目をあける。
男性の大きな背中が視界いっぱいにあった。
「大丈夫?」
振り返った男性は微笑して千枝華を見る。
「はい……」
千枝華の目は男性のスーツにくぎ付けになった。
彼のスーツは愛姫がかけたワインで濡れて染みが作られていた。
「わ、私……こんなつもりは……」
愛姫がうろたえている。
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