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二人は何度も焦がし、そのたびに笑って口に頬張った。
屋台で軽く腹ごしらえをすると、二人は手を繋いで散策路へ向かった。
さながら赤金の回廊だった。
すでに日は沈みでいるが、ライトアップされているので、足元に不安はなかった。
二人が歩を進めるたびに影が伸びては短くなる。
すぐ横にある山中湖は木々に隠されて見えない。
空気は冴えて、いっそ寒いくらいにさわやかだ。
夜を彩るのは星ではなく朱金の木の葉。
頭上はるかにそびえる紅葉が空を埋め尽くし、照明を受けてきらめくようにも燃えるようにも輝きながら二人を見下ろしていた。
アップダウンとともに曲がりくねっている散策路は歩を進めるごとに見え方が変わる。深く重なる葉の茂みに濃淡があり、光によって黄金から深紅へのグラデーションが生まれ、絢爛たる威容を誇る。間近にまで迫る赤い葉も大きな幹も迫るように視界を埋め尽くす。
「山粧う、だっけ」
奥行きのある紅に包まれ、千枝華はうっとりと木々を見上げる。
「郭煕の漢詩だね。春は「山笑う」、夏は「山滴る」、秋は「山よそおう」、冬は「山眠る」という季節ごとの表現がおもしろいよね」
「でも、よそおうだけでは足りないわ、こんなにきれい」
「千の枝が華やか。君の名前の通りだな」
紅葉を見ながら将周が言った。
「お父さんに聞いたよ。紅葉があまりにも美しかったから名前にしたんだって」
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