49人が本棚に入れています
本棚に追加
千枝華も聞いたことがあった。父と母が初デートに行ったのが紅葉で、彼女が生まれたときにはそれにちなんで名前をつけたのだと。
奇しくも千枝華と将周の初デートも紅葉だった。
「名前負けだわ」
「そんなことはない。君は綺麗だ」
真顔で言われて、千枝華は照れた。つなぐ手にぎゅっと力をこめる。
「こういう形で来ることになるとは思わなかったな」
将周は少し残念そうにつぶやいた。
「どういう形でも一緒に来られてうれしいわ」
「いつも前向きに言ってくれるね。そういうところに俺は支えられている」
千枝華は意外な言葉に目を見開いた。将周は優しい笑顔を彼女に向ける。
「気付いてなかった?」
「ぜんぜん……」
時間差で、胸にうれしさが満ちる。彼の支えになっているのなら、そんな喜ばしいことはない。
「あいつ、本当に仕事に失敗してるな」
「どうして?」
大和のことを言っているのだと察してたずねる。将周の優しい目が千枝華を見つめる。
「俺は君への想いが強くなった」
千枝華はどきっとして将周を見つめ返す。
気が付けば周囲に人はおらず、二人きりだ。
はらり、と色づいた葉が舞い落ちる。
将周が彼女の手を引き、立ち止まらせた。
最初のコメントを投稿しよう!