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「君が好きだ。愛してる。高校生のときからずっと」
彼はまっすぐに千枝華を見る。
「君が周りを気にして無理しているのは気付いていた。君が納得できるのなら、と思って見守って来たつもりだ。だが、もうそれはやめてほしい。無理なんかしなくても、君はもう俺の隣に立っていてほしい人なんだ」
千枝華は将周から目を離せない。
「今まで、きちんと言っていなかったかもしれない」
千枝華の胸がどきどきと高鳴った。紅葉はもう目に入らない。将周だけが視界のすべてだ。
「俺と結婚してほしい」
彼の言葉に千枝華は息を呑んだ。
「嫌なら断ってくれていい。親父たちの仕事は気にしなくていい。そもそも君とのお見合いを申し込んだのは俺なんだ」
お見合いは父親たちの都合だとばかり思っていた。相手が将周だったのは偶然に過ぎないのだと。
「承諾してくれたから、それでいいんだと思っていた。だが、君がもし……」
「嫌です」
言葉を遮り、千枝華は言った。
将周は顔を険しくして彼女を見返す。
「そうか……」
落胆のため息をついた将周に、千枝華は抱き着いた。
「離れるなんて嫌です」
将周は驚き、それから千枝華を抱きしめ返した。
「指輪……今の給料の三か月分でもいい?」
「あなたがくれるなら、一生分の価値があるわ」
千枝華が答えると、将周は微笑した。
赤い絨毯のような地面には、ライトによって二人の長い影が伸びている。
将周の足が一歩、千枝華に歩み寄る。
長く伸びる二人の影が、ゆっくりと重なった。
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