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「ご父君は素晴らしい方だ。一代で大企業に育て上げた」 「ありがとうございます。……手を離していただけませんか」 「嫌だ、と言ったら?」  いたずらっぽく言う彼に、千枝華は微笑を返す。 「人を呼びます」 「それは困るなあ」  彼は苦笑して手を離した。 「君とはもっと仲良くなりたいな」 「私と仲良くなってもメリットはありませんよ」  急成長した会社の社長の娘だということで近付いてくる人は男女問わずいた。 「君と仲良くなること。それ自体が私のメリットだよ」  彼は魅惑的に微笑して千枝華を見つめる。  大人の余裕、なのだろうか。  千枝華は耐えられずに目を逸らした。思いがけず心臓がどきどきしてしまう。 「かわいいな」  千枝華の肩をそっと抱く。 「酔っておられますか」 「君の美しさに」  千枝華の頬に手を添える。  彼女は顔を背け、肩を抱く手を振り払った。 「これ以上は、本当に人を呼びます」 「手厳しい」  男性はくすくすと笑った。
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