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「大丈夫そうなので、私は戻ります」 「待って。君の婚約者のことで話がある」  歩きかけた足を止め、千枝華は振り返った。 「私は彼の秘密を知っているよ。知りたくない?」 「必要ありません」  こういうのはたいてい中身のない話で、聞く価値はない。千枝華の気を引き、彼女の父、あるいは将周との繋がりがほしい人物によくある行動だった。女性の場合は千枝華と将周の仲を引き裂くのが目的の場合が多かった。 「肝が据わっているし、お嬢様なのにバカじゃない。ますます私の好みだ」  男がまたくすくす笑う。千枝華は顔をこわばらせた。 「千枝華!」  廊下の端から愛しい人の声がした。  振り返ると、将周が走ってこちらに来るところだった。 「時間切れだ。連絡待ってるよ」  彼は名刺を千枝華の手に握らせ、足早に歩き去った。 「すまない、すぐに来られなくて。あの男になにかされたか?」 「なにもないわ。むしろ助けてくれた人よ」 「本当に?」 「心配しすぎよ」  微笑する千枝華を将周はぎゅっと抱きしめた。
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