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大丈夫よ、この列車なら。
どうしてそう言い切れるかって?
だって、この東の大国行きの列車は我が社のものですもの。
気付かなかった?
まあ貴女、ともかく一番速いのに乗りたがっていた訳だし。
だからこそ、私が二等に乗っても大丈夫なのよ。
でも、流れ弾が来るにしては、この辺りで抗争があるという話も聞かないし。どうなのかしら。
ところで何処まで話したかしら。
そう、後に義妹となるアリッサが上の学校に行きたいと言い出したあたりね。
その頃、女子にも高等教育を、という話が持ち上がりつつあったの。
だけど我が国ではまだなかなかね。
そこで彼女、留学したい、と言い出したの。そこなら彼女の学びたいことができる、って。
無論皆反対したわ。
家庭教師だけでいいじゃないか、もう社交界に出なくてはならない。
それは進取の気風があった男爵家でもなかなか難しいところでね。
ただ兄君の方は、できるだけ好きなことをさせてやりたいと思った訳。
いずれにせよいつかは嫁いで行く。
ならばその話が出るまではできるだけ好きなことを、と。
そこで留学は無理だったけど、その頃ぼちぼち出始めていた大学の聴講生にアリッサは志願したのね。
兄君の通っていた大学の中でも、ところどころで記述と口述の試験に受かればどんな身分の者でも、男女問わず無料で聴講できるというのがあったの。
だからこれはもっぱら庶民が現状を突破するためのものであったのね。
もしくは、ずっと平教師だった人が、年老いて悠々自適の日々に入ってから、ようやく自分の好きな学問をするとか。
そしてほんの時折、女子が居たの。
「試験に一度で受かったら行かせてやろう。そしてもし結婚の話があってまとまったらそこで終わりだ」
それがお家の方からのぎりぎりの線だったのね。
そこで私は、アリッサと一緒に試験対策をすることになったの。
何も私まですることは無いじゃない、と思うかもしれないわ。
だけどアリッサがそれを望んだのよ。
「アイリーン先生はもっと野心を持ってもいいと思うの」
彼女は言ったわ。
そんなもの、私は持ち合わせたことが無かった。
でもアリッサからしてみれば、そういう血筋なのね。
新しいことをどんどん取り込んで行こうっていう気持ちが旺盛だったの。
「それで、何を専攻したいのかしら?」
「化学!」
さすがにそれは驚いたわ。
しかもそれまでも独学で基礎は結構やっていたというの。
立場がないわね。
でも仕方ないわ。
私が教えられたのは本当に帳簿の計算に役立つ実用の数学程度だったもの。
男爵家の持つ工場を見に行った時に、石鹸やその他の化学製品を見て、それが出来上がっていく様に感動したんですって。
まあだから許されたとも言えるわね。
お父君にしても、自分の事業に興味を持ったが故にそういう学問に目覚めたというなら。
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