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【1】
「真理愛、美味しいか?」
圭亮が買って来たデザートを食べるぎこちない手つき。
父に目を向けて黙って頷きを返すと、また右手のスプーンを口に運ぶ五歳の少女。
ほんの数か月前、初めて出逢った娘だ。
五年以上前に別れた恋人の今日子が一人で産んで育てていたことも、彼女の死で知った。
死を選んだ際、娘を託す相手はやはり父親の圭亮しかいないと思ったのか。あるいは、天涯孤独の彼女には他に当てもなかっただけか。
圭亮の母によく似た容貌の娘。
不思議と、親である自分と今日子には大して似ていない。それでも「我が子だ」と理屈ではなく納得したのは、真理愛に明白な実母の、……目には見えない己の影も見たからだろうか。
それこそ「自分とは似ていない」美しい母。
祖母の特徴を受け継いだ、綺麗で可愛らしい娘。
真理愛にとっては祖父母に当たる圭亮の両親が、「孫」として受け入れてくれたからこそ実現したこの生活だった。
笑うことも話すこともなかった娘が、「家族」と接する中でまずは笑顔を、そして徐々に言葉も発するようになって来ている。
現実問題として会社員である圭亮は、両親の助けがなければ娘を引き取ることなどできなかった。
実家での四人暮らしだからこそどうにか回っているのも痛感している。
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