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幸せの欠片
「坊や、何をそんなに必死に集めているのだ?」
空気中を飛び交う灰に混じる何かを無我夢中で集める少年がそこには居た。
いつもなら、きっと僕は気にせず通り過ぎていただろう。
でも、涙を流しながら懸命に集める少年を見て、僕は思わず足を止めていたんだ。
討伐の帰り道だった。
いつものように依頼をこなし、王国へその戦利品を献上する道すがらだった。
「そんなところで一人居るのは危ないよ。もう太陽も西へ傾きはじめてる」
「うん、でもお母さんが……」
「えっ?」
「お母さんの欠片を集めてるの、お姉ちゃん」
!?
そういえば、今朝通った際に見たはずの小屋が無い。
そういうことか……。
「くそっ」
なんてことだ。
此処は安全な区画のはず。
国を護るために居るのに、僕は一体何を守れているというのだ。
「お姉ちゃん手伝って」
「えっ?」
「太陽が沈む前に拾い集めないと、お母さんが帰ってこれなくなるから」
「……」
その灰と一緒に舞う光る破片、恐らくこの少年の母親が身に纏っていた服の一部だろうか。そんな物を集めてももう君のお母さんは戻って来ないと言うのに。
だが、そんなことを年端の行かない少年に言えるわけがない。
「ああ、分かった手伝おう」
僕は少年に微笑むと、彼と同じ様に光る欠片に手を伸ばす。
この炎が舞う中の一時の光に過ぎないそれを。
夜が来ればこれがただの服の破片と気付くだろう。
そして、どれだけこの子が悲しむのかが想像がついた。
それでも……。
「さあ、そんなんじゃお母さんをこの炎の中から救い出すことは出来ないぞ少年!?」
「うん、お姉さん僕頑張るよ」
良い表情だ。
「その意気だ」
勇者である私だけに見える人のオーラ、恐らくこれはこの子の母親の魂なのだろう。
この子を守って散っていた勇敢な彼女へ誓う。
(僕がこの子が無事に成長するまで見守る事を誓うよ、だからあなたは安心して天へと上りなさい)
僕の新たな任務が出来た、この子が毎日笑えるように幸せの欠片を集めよう。
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