天使と悪魔の囁き

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「デザートまで食べたらダメだよ。ほら、我慢しよう?」 「こんなに美味そうなんだから我慢する事なんて無いって。ついでに食っちまおうぜ!」 997敗。 「ここは階段を使おう。健康にも良いし、エレベーターは他の人に譲ってさ」 「お前だって疲れてるんだから、ここは堂々とエレベーターを使っても良い場面だろ」 998敗。 「えっ、今月はもう無駄遣いをしないって決めたんだし、買うのはやめようよ!」 「三つ買ったら安くなるんだ、どうせならオトクな買い物をしようぜ」 ……。 「私、向いてないのかもしれない……」 人間の深層意識に囁きかけて、正しい方向へと導く。それが私の――天使の役割だ。 だけど、もうかれこれ999回も無視されている。 いや、無視では無くて…… 「だったら、無駄な事はやめちまえば良いのに」 この、悪魔の囁きの前に却下されているのだ。 「でも、私がやめたらこの人間は……!」 「どうせ今だってオレの言う事しか聞いてないんだ。自分に甘いのが人間ってもんさ」 「それでも、正しい方向への導きが無くなったら善性はどんどん失われてしまうかもしれない」 「そんなモン、元からコイツには無かったのさ」 悪魔が私へと近付く。 「ほら、そう考えたらバカらしいだろ? だから、もうラクになっても良いんだぜ?」 「楽に?」 「お前は充分に頑張った。そろそろ、こんな役目も終わりにして良い頃だろ」 そして、囁いた。 「もう、自分の無力さを嘆くのは終わりにしても良いんだ」 思えば、悪魔の言う通り。 私は、ずっと自分の囁きを聞き入れられないで無力感に苛まれていた。 それを終わりにする――。なんて魅力的な響きだろう。 「流石は悪魔、という感じだね」 的確に『その者にとっての甘い言葉』を囁いてくる。 「でも、やっぱり私はやめない」 私には悪魔の囁きに対抗する天使はいないけど。 「私は、私が正しいと思う事をするべきだと思うから」 自分の意志で、善き行いをするんだ。 本当は、人間もこうして一人で決断できるらしい。 だけど誘惑の多くなった世界を嘆いた神様が、私達を遣わせた。 その意味や意義を、私は手放す訳にはいかない。 「ちぇっ、千回目にしてオレの負けかよ」 つまらなそうに、私の言葉を受けて悪魔はそうボヤいた。
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