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◇ ◇ ◇
「今日くらい休めないの? 慎ちゃんもまだ小さいんだし──」
大晦日の夕方。
夜勤のために家を出る母さんをばあちゃんが引き止めてた光景は、二十年以上経っても俺の記憶に焼き付いてる。
「病院は年中無休! 慎吾ももう四歳だし、それこそ育休明けの一歳の頃は私が休ませてもらってたの! 小学校に入っても中学生になっても『今が大事だから』って言うの? いつまで!?」
母さんも急いでて気が立ってたんだと思う。
普段なら俺のことで世話になってるばあちゃん、つまり母親にこんな物言いする人じゃなかった。
『白衣の天使』なんてただの幻想だ。少なくとも、患者さんじゃなく家族には。当たり前だけど普通の、人間なんだよ。
正月さえ家に、……俺の傍にいてくれない母さんを恨んだこともあった。ガキの頃な、もちろん。
俺が二歳のときに離婚して、実家で両親と同居して仕事続けてた母さん。もうじいちゃんもばあちゃんも亡くなって今は一人だけど、変わらず年中働いてる。
寂しかった幼い頃でさえ、きっと心の奥底ではちゃんと理解してた。
母さんのこと、信じてたし尊敬してた。
──だから俺も、同じ道を選んだのかもしれない。
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