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◇ ◇ ◇
職業柄二交代のシフト制で休みが不規則な俺は、「彼女」ができても結局すれ違いが増えて上手く行かなくなることが多かった。
夜勤明けでやっと寝ついたところに『声が聞きたい』って電話掛けて来られたときは殺意が湧いたな。いや、ほんの一瞬だけどさ。
同業者なら互いの気持ちがわかるかも、と考えたこともあったけど、「気持ち」はともかく時間は余計に合わせるのが難しかった。
結局、どっちもシフトで働いてるんだから。
今になって、俺はあの頃の母さんの気持ちが少しはわかる気がするんだ。
いや、でもそんなのまさに気分だけかもしれねえ。
だって俺は独身で子どももいないしな。所詮「自分のこと」だけ考えてればいい気楽な身分だ。
でも母さんは違った。
俺を育てるために金が必要だったのは子どもにだってわかる。
しかも、いくら普段の面倒は保育園や自分の親がいるからって、母さんは何もかも丸投げになんてしてなかったよ。家にいるときは俺に向き合ってくれてた。
看護学校は、……俺は四大の看護学部だけど、国公立じゃなければ結構な学費が掛かる。俺が申し訳程度の小遣い稼ぎのバイトだけで私立大に通えたのも、母さんのおかげだ。
ひとり親として、母さんは嫌でも働いて稼がなきゃならない立場だった。それでもきつい仕事を続けてたのは、決して金だけのためじゃないと思ってる。
実際にせっかく資格取って就職しても、途中で辞めて別業種に行くやつなんて珍しくないって今の俺はよく知ってるからな。
母さん自身は「看護師は天使なんかじゃないよ。仕事!」なんて口にしながらも、間違いなく自分の仕事に誇り持ってた。いつだったか、「天職だと思ってる」って笑ってたのも覚えてる。
俺の父親と離婚したのは、何もしない手間掛けるだけの男なんているだけ邪魔だって気づいたからだってばあちゃんに聞かされた。
実際に、家事も育児もしない奴なんていない方が楽だよな、金以外は。その点、母さんは経済力はあったから。
流石に母さんは息子にそこまでは言わない。父親の愚痴や悪口も聞いた覚えないよ。だけど、それが事実だと俺は考えてる。
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